資本金の額の減少
資本金の額の減少とは、資本金の減少とそれに伴う資本剰余金の増加を生じさせることをいいます。資本剰余金の増加において、増加分を資本準備金に組み入れたり、資本剰余金に組み入れることが可能です。
資本金の額の減少を行う目的
ポイント
- 欠損の填補
欠損填補とは、マイナスになった剰余金を資本金や資本準備金で穴埋めする損失対処法になります。 - 外形標準課税制度への対応
資本金が1億円を超える株式会社は外形標準課税(資本金により判断される事業税)の対象になります。これを減資により1億円以下にして対処することがあります。 - 中小会社への移行
資本金が5億円以上の会社は大会社になります。機関設計を小さくするためにも減資により中小会社に移行することがあります。
決議機関と要件
決議機関は株主総会特別決議で、決議要件は、①減少する資本金の額、②減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額、③資本金の額の減少の効力発生日になります。
※貸借対照表を承認する定時株主総会で、減少する資本金の額が欠損の額を超えない場合は、株主総会普通決議で足ります。
※効力発生日に資本金の額の減少の効力が発生しますが、下記に示す債権者保護手続きが終わってない場合は、効力は発生しません(効力発生日前なら、効力発生日を延長することが可能です)。
資本金の額を減少する行為に伴う債権者保護手続
債権者保護手続きは、官報での公告と債権者への個別催告を行う必要があります。ただし個別催告の文面を日刊新聞や電子公告で広告する場合は、債権者への個別催告を省略することができます。
※債権者は会社の資本金を信用して取引をしているため、資本金の額の減少をする際は、債権者に対して異議を述べる権利が与えられます。債権者が異議を述べることが出来る期間は1ヵ月以上必要です。そのため減資の手続きは1ヵ月以上を要します。
異議を述べてきた債権者への対応
債権が弁済期に達している場合は債権者へ弁済し、達していなければ相当の担保を提供あるいは相当の財産を信託することになります。ただし、資本金の額の減少をしても、異議がある債権者を害する恐れがない場合は、対応する必要はありません。
資本金の額の減少に対する無効の訴え
無効主張をすることができる期間は、効力発生日から6ヵ月以内になります。
準備金
準備金は資本準備金と利益準備金に分けれらます。資本準備金とは、資本金の払込み又は給付に係る額の1/2を超えない額を準備金として積み立てておくものです。例えば、会社の業績が悪化したときに資本準備金を使い、会社財産を維持することが可能になります。
剰余金の配当に伴う準備金の積み立て
剰余金を配当する場合、配当額の10分の1を準備金に積み立てる必要があります。例えば、配当金が1000万円の場合、準備金への積立額は100万円になります。ただし、剰余金配当日の準備金の額が資本金の4分の1以上ある場合は、準備金を積み立てる必要はありません(例えば、資本金が1億円、準備金が2500万円のとき)。
準備金の額の減少
準備金を減少させることにより、欠損の填補や資本金への組み入れ、剰余金とすることが可能になります。
準備金の額を減少するときの決議機関
決議機関は、株主総会普通決議になります。決定する事項は、①減少する準備金の額、②減少する準備金の額の全部または一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額、③効力発生日になります。
※効力発生日に資本金の額の減少の効力が発生しますが、下記に示す債権者保護手続きが終わってない場合は、効力は発生しません(効力発生日前なら、効力発生日を延長することが可能です)。
準備金の額を減少するときに必要な債権者保護手続き
原則、資本金の額の減少の場合と同様になります。
ポイント
債権者保護手続きが不要な場合
- 定時株主総会の決議における準備金の額の減少で、減少額が欠損額を超えない場合
- 減少する準備金の額の全部を資本金として計上する場合
剰余金配当
剰余金を配当するには、株主総会普通決議で剰余金配当議案の承認が必要になります。決定事項は、①配当財産の種類及び帳簿価格の総額、②株主に対する配当財産の割当に関する事項、③剰余金の配当の効力発生日になります。
ポイント
剰余金配当において株主総会特別決議を要するとき
- 配当財産が金銭以外で、金銭分配請求権を与えないとき
剰余金配当において取締役会決議により決定できる場合
- 中間配当(一事業年度の途中、一回に限ります)
剰余金配当請求権
株主総会の決議等による剰余金配当決定後、株主は剰余金支払い請求権を取得することになります。これは債権として株式とは独立して処分や差押え、時効の対象になります。また株式譲渡に際し、当然にこの債権が移動することはありません。
※剰余金配当決定前は、株主は単に剰余金の配当を受ける権利を有するのみで、これを独立して譲渡または質入れなどの処分、差押の対象とすることはできません。
配当に関する実質的要件(財源規制)
剰余金配当の総額は、効力発生日における分配可能額を超えてはいけません。また、会社の純資産額が300万円を下回る場合は、剰余金の配当をすることはできません。
違法配当
ポイント
- 業務執行者(業務執行取締役)が分配可能額を超えて剰余金の配当を行った場合、業務執行者は支払った金銭に相当する金額を支払う義務を負います。このとき、総株主の同意があれば、当該行為時の支払い分配可能額を限度に支払い義務が免除される(例えば、分配可能額が1000万しかないのに、2500万円分配した場合に総株主の同意があれば、分配可能額の1000万が免除され、賠償額は1500万円のみになります。)。ただし業務執行者が注意を怠らなかったことを証明したときは支払い義務を負いません。
- 違法に配当を受けた株主は、これに相当する金銭を返還する義務を負い(株主の善意、悪意は問わない)、会社も株主に返還するよう請求できます。